下呂石で尖頭器を作る(3) 荒剥ぎまでのまとめ [石器作り]

神子柴の尖頭器が、黒曜石より壊れやすく、しかも、剥離加工の障害となる「石目」のある下呂石で、なぜ、薄くて長い尖頭器を作る事が出来たのかについて、下呂石を敲きながら、①として、下呂石の中にある「石目」の層が緩衝材となり、下呂石を「強靭」にしているのではないか。 ②として、「石目」の特性を、折損防止として利用するため、図1の緑の線のように、長軸方向に使い、剥離の障害を最小にするため最短距離で通過するよう計画的に加工した事によって、薄くて長い尖頭器を作る事ができたのではないかと考えた。
石目模式図 1-2.png
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①「石目」が下呂石を強靭にしたのではないか。

黒曜石は粘りがある。 黒曜石は、下呂石に比べ、わずかであるが弾力性があり、打撃して、割り取れない場合、打撃部にヘルツの円錐による割れが発生する。しかし、ヘルツの円錐は、圧子(ハンマーの先端径)の径の約3倍までしか亀裂は入らないといわれ、それ以上深くはならない。また、尖頭器のような細長い石器を作る時、先端を打撃すると、「むち打ち現象」によって、中央部から折損する事故が多々発生する。
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下呂石は硬く亀裂が入りやすい。下呂石は、黒曜石に比べて硬く、打撃して、割り取れない場合、ヘルツの円錐の発生は少なく、奥深くまで亀裂が入り、後工程での破損の原因となる。また、黒曜石では考えられないような肉厚な部分でも、敲けば亀裂が発生したり割れたりする。この性質を利用して、厚い剥片を加工する手段として使っている。

硬い下呂石が強靭であるという矛盾。 「石目」を意識して下呂石を敲き、思いの外、加工の衝撃に強く、剥離して薄くなっても「むち打ち現象」による折損が起きにくい。普通、「硬い石は、薄くなると破損しやすい」が常識であるが、この矛盾した現象をどう理解すれば良いか。

「石目」が衝撃を吸収している? ヒントとして、昔から、西洋の刀より日本の刀の方が折れにくいと言われている。その理由は、西洋の刀は鉄を完全に溶かした「塊」を伸ばして形作られているのに対して、日本刀は、鉄を溶かした小さな塊を、折り返しながら「わかしづぎ」という鍛接法で形作られた「積層構造」であるから強いと説明されている。この例と同じ様に、黒曜石が「塊」であることに対して、下呂石は、長石が多い「石目」が重なった「積層構造」となっており、この「石目」が衝撃を吸収する役目と柔軟性を出していることに加えて、弱い物(長石の石目)が、強い物(下呂石)を破壊しにくいという原理も働いているのではないか。つまり、他の石材には無い、下呂石と石目の絶妙なバランスが「強靭性」を作り出しているのではないかと考えた。
②「石目」をどのように利用しているか。 神子柴の尖頭器を作った工人が、剥離に不都合な石目をどのように加工したか、模式図1と模式図2を書いて比較してみた。

図1は、神子柴の尖頭器の石目を模式化したもので、頂点Aから頂点Bに一枚の石目の層が通るように計画したのではないか。理由として、矢印Cや矢印Dのように、石目に対して垂直方向から敲いても、積層構造が受けるため折損しにくい。また、矢印Gから、石目に対して平行の方向に剥離する場合、剥片の石目が左右対称となり理想的な剥離となる。矢印Hから剥離する場合も、対称形は多少崩れるが、Gに次いで理想的な方向となる。など石目のある石材を加工する場合最も理想的な加工となる。

石目模式図 2-2.png
図2は、石目を斜めにした場合の模式図で、矢印Eから敲くと、石目面から割れる可能性が高い。反対側の、矢印Fから敲くと石目に対して斜めの加工となり、加工面が波打つ。矢印Gから石目に対して水平に剥離する場合、石目を非対称形に切る剥離となり上手く剥ぐことができない。また、矢印Hからの剥離は、角度を変えてもDと同じ結果になり、いずれの方向も、加工には不都合で、石目を意識して長軸方向にしないと上手く加工できないことがこの図からも明らかである。

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現在の段階で、「荒剥ぎ」工程まではある程度理解できた。また、薄く加工するテクニックも少し明かりが見えてきたような気がする。しかし、素材剥片の大きさと形、下呂石と石目のバランスと、密度などの課題が残っており、どの位の時間を要するかわからないが「粘り強く」続けるつもりでいる。

「下呂石の加工」は、一応これまでとして、次は、「未乾燥の土器が凍結するとどうなるか」をまとめたい。

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